■「介護保険制度」は国民に受け入れられたのか
5年前、介護保険制度は賛否両論の渦の中でスタートしました。読売新聞世論調査によると、2000年9月に「制度を評価する」と答えた人が43%だったのに対し、2005年1月には61%にまで増えています。
また、「家族の負担が軽くなった」「要介護認定に対しては概ね納得している」と70%超える人から高い評価を得ています。
「このデータからも見られるように、基本的には介護保険は成功しているといえるのではないでしょうか。」と重永さんは話します。
「制度を作るときは、家族の介護負担の軽減に本当に繋がるのか、介護事業者などのサービスがうまく提供されるのかなど多くの問題が懸念され、うまくいかないのではという声が随分聞かれました。
しかし、現在は多くの方から好意的な評価をいただいていますし、サービス提供の量も規制緩和もあって、いろいろな業者が参入し確保できております。
なかでも、市町村が保険者になってサービスを提供することに対しては、当初は厳しいご意見が寄せられました。しかし、市町村では優秀な人材を介護保険制度発足時に投入し、大きな混乱もなく円滑に進んでおります。

介護保険制度を二段階ロケットにたとえますと、総合的に考えて、第一段階の発射の段階はうまくいったと言えると思います。ただ、これは第一段階の成功ということであって、介護保険制度がこれからも高齢者の生活の安心を支え続けられるよう、制度の持続可能性を高めるためには、制度発足時の理念の徹底や制度が始まってわかった問題の解決をしていかなければなりません。これが今回の見直しの意味であり、先ほどのたとえに戻りますと、最初のロケットを切り離し、次のロケットに移ることによって、制度をうまく軌道に乗せていくところなのです。」

■2000年になぜ作られたのか? 国民からの保険料の徴収や企業負担の問題があり、「社会保険制度」はあまり作られません。その負担が生まれたとしても、あえて社会保険制度のひとつである介護保険が作られたのはなぜでしょうか。
「日本には老人福祉制度は介護保険制度が生まれるずっと前からありました。しかし、従来の措置制度による対応は、高齢化が進み、介護を必要とする人がますます増えていくなかで限界を迎えていたといえます」。
措置制度下では、介護を受けるとき、本人の希望による契約ではなく、行政が入所先等を措置により決定してきました。
「特養を希望した場合、低所得であれば低い負担で入所できましたが、ある程度の所得のある人は負担が重くて、なかなか入りづらいという状況にありました。
また、老人福祉と老人の医療のはざまに"社会的入院"もありましたので、両者を再編成し、基本的には介護保険制度の中で高齢者の介護の生活が適切になされるような仕組み作りを目指しました」。
厚労省は1990年代にゴールドプランなどで老人福祉の基盤整備を進めてきましたが、さらに一歩進んだ段階として、措置制度ではなく、社会保険制度として新しい制度が作られたのです。
「こうした見直しがなされた背景として、社会全体で介護をとらえていこうという国民の合意が得られたことがあるのではないかと思います」。
当時、老老介護や介護自殺など、介護にまつわる痛ましいニュースが表面化し、家族内だけの介護には限界が見えてきたことも、制度が作られる背景にはあったようです。
新しい法律を作るときには、国民の力強い後押しが必要です。国のどの部署もそれぞれが大事な課題を抱え、その中で優先度が高い課題から実現していくことになります。「介護」はそれだけ国民の重要な課題となり、社会の優先度が高まってきたといえます。
「制度設計に当たって、介護が必要な方には適切なサービスを、そして介護する家族の方にも外のサービスを使うことで、身体的な負担を軽くし、介護が必要な方に思いやりをもった接し方ができるような仕組みをめざしました」。
■あるべき介護の姿とは?
厚労省の方のお話のなかに、よく「あるべき介護の姿」という表現がきかれます。何を指して「あるべき介護の姿」と言うのか、日頃の疑問を伺いました。
「それぞれの文脈の中で、具体的にどのようなことを指すのか異なっているのでしょうから、これからお話しすることは、あくまでも介護全般に関する個人的な考えですが、介護が必要な方の立場に立った介護をより進めていく必要があるのではないか、と思っています。
具体的には、まずサービスの選択の点ですが、介護を必要な方が本当に望んでいるサービスを選択しているか、そうしたことが可能なサービス提供体制が整っているかということですが、たとえば、特別養護老人ホームに入ることを本人が本当に望んでいるかというと、介護する家族の決定が大きな要素になっているという現状もあります。
介護保険が始まって、詳細なデータをとっているのですが、要介護状態の約半数が認知症の方、ということもわかりました。
認知症の方々は住み慣れた地域に暮らし続けることが望ましいと言われています。今回の改正では、日常生活圏で必要なサービスを提供していく地域密着型サービスを創設し、具体的なメニューとしては、規模は小さいですが、さまざまなサービスを一カ所で提供する小規模多機能型居宅介護などを用意することとしています。
ケアマネジャーは本来、要介護者の自立に役立つような利用者よりのプランを作らなくていけないのですが、ケアマネジャーがサービス提供事業所に所属している場合が多く、どうしても所属する事業所よりのプランを作ることが起こりがちです。
今回の見直しでは、ケアマネジャーの担当件数や報酬の見直しをするとともに、研修をしっかりして、利用者本位のケアプランを作るように、ケアマネジャーの質を高めることも考えております。
一方で、ケアマネジャー本人は一生懸命やろうとしていても、担当件数や経験・能力などの関係で対応が困難な事例を抱えてしまうこともありますから、地域包括支援センターを作り、そこに主任ケアマネジャーという経験豊富なケアマネジャーを配置してケアマネジャーをフォローする体制も整える予定です。」
「また、給付の適正化の一環として、ケアプランのチェックが行われていますが、これもケアプランの質の向上に役立ちます。医療や福祉などの様々な領域の専門家が関わり、ケアマネジャーの立てたプランが適正かどうかを見ていきますので、ケアマネジャーが気づかなかった観点からのアドバイスが得られます。これにより、今後のケアプランの質の向上につながりますし、他のケアマネジャーも参考することにより、ケアマネジャーの質の向上に繋がるものです。」と話します。
■地方によってサービスのばらつきが起こる!?
今回の改正では、市町村によって受けられるサービスにばらつきが出るのではないかと懸念されています。そのあたりはいかがでしょうか、と伺いました。
「確かに今後のサービスはこれまで以上に市町村の能力が問われてくると思います。
施設偏重型を脱しきれないところや、予防給付について18年4月から実施出来るかどうかなど、市町村ごとにサービスの格差が出てきています。
自分の市町村のサービスや保険料が、他の市町村に比べてどうなのかということは、これだけ情報開示されていますから、明確に見えてきます。
今回の改正は費用を抑えながら、質の高い介護保険サービスを提供しようとするものですので、この改正の趣旨が踏まえられたものになっているかどうか、地域の住民もきちんとチェックしていかなければなりません。
介護保険の事業計画は3年に1回立てられますが、地域住民の意見を聞くことになっていますので、利用者やその家族の方などがそれぞれの立場から意見を述べながら、自分の街の介護保険制度をみんなで作り上げていく必要があると考えています。」
まだまだ介護保険は変化し続けるようです。知恵は現場に生まれます。私たちの声を直接厚労省に届けたい場合はどうしたらよいのでしょうか。
「ご意見がございましたら、どんどんお手紙をください。とくに建設的なご意見は大歓迎です。一緒に力を合わせて、よりよい制度に成長させて行きましょう。」
今回は、厚労省に伺い日頃の疑問を直接伺いました。けあコミュニティに寄せられるご意見など、今後はどんどん厚労省にお届けしたいと思います。
(2005年8月掲載)
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