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オーストラリア現地レポート
(3)あらゆる難病や身体レベルの人にも
社会性を取り戻すための支援が

地域間・世代間の交流こそが
人生を充足させるカギに

元気な高齢者を対象とした太極拳のアクティビティ。あらゆるレベルの人々がいきいきと生活できるよう様々なプログラムが実践されている。
元気な高齢者を対象とした太極拳のアクティビティ。あらゆるレベルの人々がいきいきと生活できるよう様々なプログラムが実践されている。

 オーストラリアにおけるDTの目的は、「要介護高齢者が抱える孤独感・絶望感を、人生への幸福感や充足感に転化する」ことにあります。では、人が自分の人生を「満ち足りたもの」と感じるうえで、特に重視する要素にはどんなものがあるでしょうか。

 すでに述べたように、「何をすることが、その人にとっての人生上の楽しみなのか」を把握する際、「誰とそれをするか(with who)」がポイントの一つとして上げられます。このことは、言葉を変えれば「その人の社会性を取り戻す」ことに他なりません。

 要介護高齢者は、身体的・精神的に大きなハンディがあり、それゆえに他者とのコミュニケーションが取りにくくなっています。そのことが、地域間や世代間の交流を阻害し、人生における孤独感や絶望感をさらに深めてしまうという悪循環を生むことになります。

 特に、住み慣れた家を離れて施設などに入居した場合には、見知った人も少なくなることにより、この悪循環はますます深刻になるでしょう。このことは、日本の介護現場でも大きな課題となっています。

 こうした課題をDTの立場からどのように解決していくか。1回目で紹介したメルボルン郊外のニューコム・ナーシングホームにおける取り組みを視察しました。

どうすれば他者との交流が進むか
それを演出するのもDTの仕事

 同ホームでは、近隣の小学校と連携をとり、高学年の生徒が定期的にホームを訪問して入居者と交流を持つというプログラムを実施しています。特徴的なのは、どうすれば小学生と入居している高齢者がスムーズに交流できるか、また、その交流を入居者のQOL向上に結びつけられるかについて、DTを中心に様々な工夫が考案されていることです。

女性の認知症高齢者が、例外なく前向きな反応を示すのがウェディングドレスによる仮装だという。背景に見える絵は、交流している小学生が入居者をモデルに描いたもの。
女性の認知症高齢者が、例外なく前向きな反応を示すのがウェディングドレスによる仮装だという。背景に見える絵は、交流している小学生が入居者をモデルに描いたもの。

 例えば、子どもたちに対し、事前に要介護高齢者とのコミュニケーションの図り方を教えつつ、当日は両者がすぐに打ち解けるように「手のつなぎ方」や「輪の作り方」などの演出を考えます。また、事前に子どもたちに「入居者に聞きたいこと」という質問を作ってもらい、高齢者がそれに答えるなどといった催しを行なったりします。

 また、地域の人々から不要になったおもちゃなどを施設に寄付してもらい、クリスマスになるとそれを持って、今度が入居者の側が子どもたちのいる場所(学校など)を訪ねるという催しも開かれます。これによって高齢者と子どもたちの間の相互交流がさらに活発になり、おもちゃの寄付を通じて地域住民との交流も活発になるというわけです。

 子どもたちが歌を歌い、それを入居者が聴くといった慰問の風景は日本の介護施設でもよく見られますが、DTの存在によってもう一歩進んだ交流を可能にしているのです。

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本人のできることを媒介に
DTとの関係づくりから始める


 社会性を取り戻すというテーマは、例えば統合失調症などの精神疾患がある人へのケアなどにおいて、より欠かせないものとなります。日本でもうつ病や統合失調症などの精神疾患に苦しむ高齢者への処遇は大きな課題となっていますが、オーストラリアではそうした人々の社会復帰支援において、やはりDTが大きな役割を果たしています。

入居者がDTと一緒になって栽培しているパセリ。成長したら摘み取って、実際に料理に使ったりすることも。
入居者がDTと一緒になって栽培しているパセリ。成長したら摘み取って、実際に料理に使ったりすることも。

 ブリスベン郊外にあるウィシャートビレッジというナーシングホームでは、精神疾患のある入居者への支援を専門に行なうDTがいて、その活動の様子を聞くことができました。

 例えば、統合失調症の入居者については、精神科医や看護師、ソーシャルワーカーなどの専門職にDTが加わってチームを形成します。そして、本人に対して薬物療法などをほどこす一方で、DTプログラムをミックスしながら、少しずつ社会性を取り戻す訓練を行い、最終的に退所プログラムにつなげながら在宅復帰を目指す取り組みが行なわれます。

 重度の統合失調症がある場合、入所当初は拒食や暴力行為などが激しく、他者との関係づくりが非常に難しいケースが多々見られます。そこで、本人が少しでもできる生活行為を探しながら、それをDTと協同で行うというプログラムを設定します。

 ある入居者の場合、混乱状態が激しい中でも、「庭にあった鉢植えを自分の部屋に持ってきて飾っていた」という行為が確認されました。そこで、簡単なガーデニングをDTと一緒に行なうという試みがなされたのです。

 ここでポイントとなるのは、本人のできることを通じて、まずDTとの間に関係を構築し、少しずつできることを増やす中で社会性を取り戻すことを目指す点にあります。こうしたプログラムを通じ、先の入居者の場合は約1年で在宅復帰を果たしたといいます。

終末期高齢者に対しても
その人らしさを失わせない演出を


看護師のカンファレンスにも猫が参加?常に動物が身近にいる環境をつくることも、「その人の家」を演出する大切な要素。
看護師のカンファレンスにも猫が参加?常に動物が身近にいる環境をつくることも、「その人の家」を演出する大切な要素。

 本人のできることが極端に少なくなり、社会性がほとんど失われるというケースでいうなら、やはりターミナル期(終末期)にある高齢者がその代表と言えるでしょう。

 オーストラリアは、末期がん患者などを対象とした緩和ケアの先進国としても知られていますが、終末期の人であってもできる限り「人生に対する充足感」を持ってもらえるようDTがかかわるケースが見られます。

 例えば、完全に寝たきりの状態になった人でも、その人が元気だった頃の生活の意向や人生観などをきちんとアセスメントし、水のせせらぎを聞かせたり、花の香りを漂わせたり、あるいはマニキュアを塗ったりという具合に人間の五感を少しでも刺激していくような取り組みが行なわれます。

 このように、その人の人生がどのような段階に入ったとしても、最後までその人らしさを失わないための支援を欠かさないというのがオーストラリアにおける高齢者ケアの基本です。そして、その基本を現場において支え続けている存在がDTなのです。

(2006年12月掲載)


田中 元 (たなか・はじめ)

田中元(たなか・はじめ)
 昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
 立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。現在、新聞や高齢者介護の専門誌などで、現場の視点に立った記事を掲載。
 著書に『改正介護保険で仕事はここが変わる』 (ぱる出版)、『小規模デイサービスの始め方』 (ぱる出版)、『やさしい介護のしかた』 (監修/あい介護老人保健施設、高橋書店) など。


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