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世界の高齢者福祉

世界の高齢者福祉

李 栖瑛

第二回 韓国の高齢者福祉

<東洋大学大学院社会学研究科
社会福祉学専攻博士後期課程
李 栖瑛>

基本データ
 首都:ソウル
 政体:大統領中心制
 面積:99.6千km2
 人口:2003年7月1日現在 47,925千人
 平均寿命:2001年現在76.5歳(男性 72.8歳、女性 80.0歳)
 65歳以上人口の全体に占める割合 2003年現在3,969千人(8.3%)
 宗教人口比率:1999年現在総人口の53.6%
  (仏教49.0%、基督教34.7%、カトリック13.0%、その他3.3%)
 GDP:2003年現在662兆4744億ウォン
 政府予算:2001年会計年度総予算規模 160.4兆ウォン

Q 韓国では高齢者への扶養の考え方が、近年大きく変化しているようですが?
首都ソウル
近代的な高層ビルが立ち並ぶ首都ソウル

 韓国では、近年、高齢者の扶養問題が「社会的に取り組むべき課題」として取り組まれています。その背景として、大きくは次の3点があげられます。
 1番目に「1960年代以降の急激な産業化・都市化・核家族化に伴う家族構造の変化」、2つ目に「医療技術の発達・近代化による平均寿命の延長、急速な高齢化の進展(高齢化社会の到来)」、そして「‘孝’をめぐる認識の変化、扶養意識の変化」です。

 まず、はじめに「1960年代以降の急激な産業化・都市化・核家族化に伴う家族構造の変化」についてみますと、韓国は従来、農業中心の社会でした。しかし、近年、社会での家族単位の生活から、家庭と仕事の概念が分離され、家庭の機能が小さくなるとともに、家族内での高齢者の地位と役割も変化してきました。
 また、産業化・都市化に伴い、従来の大家族から核家族化への進行が著しく、夫婦中心と単独世帯が中心となってきました。
 2000年の統計庁の調べによると、65歳以上の人口の29.9%が3世帯同居であり、次いで1世帯の単独世帯が28.7%、2世帯同居が23.9%、高齢者一人暮しの世帯が16.2%であると報告されています。これらの世帯構成の変化を1990年と比べてみると、1世帯単独世帯が16.9%から28.7%へ大きく増加し、3世帯同居世帯は47.6%から29.9%へ大きく減少、65歳以上の高齢者の一人暮らしが8.9%から16.2%へ大きく増加していることがわかります。

 つぎに、「高齢化の進展」についてみますと、韓国社会は1960年代以降、出産率の低下(1970年合計出産率が4.5人から2002年1.17人)、死亡率の減少、平均寿命の伸びによる高齢化が進んでいます。
 統計庁の調査では、2003年現在の年齢階層別人口構成比率は、総人口47,925千人中、0~14歳人口は9,719千人(20.3%)、15~64歳人口は34,238千人(71.4%)で、65歳以上の人口は3,969千人(8.3%)となっています。
 韓国において65歳以上の高齢者人口は、1980年には総人口の3.8%、1990年には5.1%、2000年には7.3%となり、国連が定めた高齢化社会に突入しました。さらに国連が定めた高齢者人口14%以上の高齢社会に到達するのは2019年に14.4%と予測されています。
 このような韓国の高齢化の特徴は、高齢化率が7%の高齢化社会から高齢化率14%の高齢社会への移動の時間が19年と、かつて先に高齢化を経験した先進国にも例をみないほど早いと予測されていることでしょう。
 また、もう一つの特徴は都市と農村との格差にあります。韓国において高齢化は都市より農村(邑、面)の方が早く、韓国が高齢化社会に突入した2000年には、都市の高齢化率が5.5%、農村は14.7%で、すでに高齢社会に突入しているといえます。
 このような高齢化の進展により老年扶養比(65歳以上人口/15~64歳人口)は2003年現在11.6%から2020年には21.3%と増加し、2003年現在は生産可能人口8.6人あたり高齢者1人から2020年には4.7人あたり高齢者1人になり高齢者の扶養負担が増加し、社会全体の負担が増加することが見込まれています。

 
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Q 3番目に、‘孝’という韓国従来の考え方が変化しているわけですね。
明洞
若者でごった返す明洞

 はい。まず、高齢者の扶養は大きく、経済的扶養、情緒的扶養、身体/サービス扶養と分けられますが、従来の韓国では、「親を扶養するのは子どもの責任である」という考えが根づよく、親への扶養は‘孝’と称され美徳とみなされてきました。この‘孝’という考え方は韓国社会の根幹を成すもととして社会的にも奨励せれ、親孝行な子や嫁は表彰されるなど宣揚されてきました。

 韓国社会では、「自分たちの老後を考える前に、自分の所得を子どもの養育と教育に投資し、経済的に安定的な収入を確保できなかった。しかし、子どもに対する投資は自分の老後の保障になる」と考える高齢者が大半です。
「子どもは、親への‘孝’をすべきで、家庭で扶養しながら身体的、精神的に楽にしてあげること」と考えられ、これまでの実際の高齢者に対する経済的・情緒的・身体・サービス扶養は家族によって担われてきました。

 しかし、このような扶養意識は、産業化・都市化・核家族化などによるさまざまな社会構造、とりわけ家族構造の変化、女性の社会進出による家庭内の扶養の担い手不足、そして自由・平等・個人的な価値観の影響を受け、現在では、親との同居よりは別居を希望する若者世代が増え、扶養意識は変わりつつあります。
 1999年統計庁で行われた若者世代と高齢者世代の扶養意識に関する差は、次の表の通りで、若者世代は若いほど子どもの責任と考えない比率が高くなる傾向にあり、年齢が高いほど扶養は子どもの責任と意識している傾向がみられます。

世帯主の年齢親の生計扶養者
子どもが扶養自ら解決合計
15-29歳39.960.1100.0
30-39歳59.140.9100.0
40-49歳77.622.4100.0
50-59歳85.014.0100.0
60歳以上83.017.0100.0
全体62.137.9100.0
資料:統計庁、1999.

 この報告は、扶養意識をめぐる若者世代の意識と高齢世代の扶養意識には相当な差がみられることを端的に示しています。

Q これらの現状を高齢者はどのように受け止めているのでしょうか?

 高齢者世代にも扶養意識の変化は少しみられます。高齢者のもつ扶養意識に関する調査をみますと、1997年行われた調査研究においては、「長男が扶養する」が49.9%、「本人が責任をもつ」が16.9%、「息子」が13.9%、「息子・娘ならば誰でも」という意見が8.9%、「子ども皆でみる」が5.5%、「社会・国家」が4.6%でした。

 しかし、2000年の統計庁の資料によると、「家族がみる」は1998年89.9%から2002年には70.7%、(長男は1998年40.3%から2002年28.5%、息子・娘皆は1998年7.6%から13.9%)へ、「自らの解決」は1998年8.1%から9.6%へ増加し、「家族と政府」という意見も18.2%と増加しています。

 このことから、高齢者の扶養の責任については、多くの高齢者はまだ息子・娘が見るべきだと考えている人が多いものの、長男だけでなく息子・娘皆という意識も増加し、社会・国家・政府の責任であるという認識が広がりつつあり、若者世代は親の扶養を子どもの責任と考えない傾向がみられています。

 このように、韓国においての高齢者への扶養問題は、もはや家庭・家族の責任と押しつけることは、変化しつつある現代社会とはそぐわないと考えられます。
 年々、女性の社会進出や、共働きの夫婦が増え続けている今、伝統的な美徳であり実践道徳である‘孝’の意味を継承しながらも、さまざまな社会構造の変化を考慮し、現実に合った社会的な扶養システムづくりが急がれているといえましょう。

Q 韓国の高齢化政策の移り変わりを教えてください
景福宮
朝鮮王朝の宮殿だった景福宮

 韓国のこれまでの福祉政策は、‘先家庭、後社会保障’のスローガンのもとで進められてきました。
 韓国では老人福祉法が1981年制定されましたが、老人福祉法の具体的な内容は一般の高齢者を対象とするものではなく、法律に明記されているサービスの利用条件は、貧困な高齢者、家族がいない高齢者を対象とするなど、一部限られた対象を想定した法律であったといえます。

 また、一般の高齢者のための国の高齢者政策は、‘敬老孝親’の伝統を強調し、家族扶養を奨励してきました。
 韓国は、1960年代以降さまざまな経済的・社会的変化を経験しながら福祉政策を講じてきました。特に1980年代後半から1990年代にかけては、4代社会保険(国民年金法1986年制定・1988年施行、医療保険1963年制定・医療皆年金化1989年、産災補償保険1963年制定、雇用保険1993年制定)を中心とする社会保障体系が整えられました。しかし、これらの社会保障体系は社会のセーフティネットとして、高齢者の生活を保障するものとしての機能を十分果たしているとは言いがたいのが現状です。

 実際、政府の予算の中で老人福祉関連予算をみると、2003年現在の老人福祉関連予算は4,292億ウォン(政府予算の0.37%)で、1995年の政府予算0.12%より3倍増加しましたが、全体国家予算からみると少なく、高齢化社会のさまざまな高齢化問題の解決には十分とは言えない状況です。
 韓国において高齢化社会に直面するさまざまな問題を解決するために、政府のレベルで本格的に福祉サービス事業を推進されるようになったのは、1990年代以降です。

 YS政府(金永三政府)のスローガンだった『生活の質の世界化』が国政課題と打ち出され、その『生活の質の世界化』のために構成された国民福祉企画団によって‘認知症高齢者10年対策’が打ち出されるなど、在家福祉サービスの3本柱とされるサービスを中心に高齢者のための福祉サービスが拡大しました。

 さらに、2000年に高齢化率が7.2%を超え、高齢化社会を迎えた韓国政府(金大中政府)は、さらに福祉サービスの拡大を推進するとともに、普遍的福祉サービスを目指し、従来の生活保護法を改善した国民基礎生活保障法を2000年制定しました。

 金大中政府においては『生産的福祉』をスローガンと掲げ、さまざまな福祉分野における改革が行われました。その中でも、高齢者政策として、高齢化社会の高齢者問題、とりわけ高齢者のケアを保障するために2007年には保険方式を取り入れた長期療養保険制度の導入が検討されるなど、ようやく高齢者に対するケアの保障システムを整えはじめました。

 
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Q 韓国の高齢化政策の現状を教えてください
南大門
国宝1号に指定されている南大門

 高齢者政策の現況を、所得保障、医療保障、住居保障、ケアの保障にわけておおまかに述べますと、まず、高齢者に対する所得保障は、年金制度(1960年制定された公務員年金、1973年制定された私立学校教職員年金、1963年制定された軍人年金の特殊職年金制度と一般国民に対し、1988年制定された国民年金制度)、貧困層を対象にした国民基礎生活保障制度、年齢の制限により国民年金が受けられない高齢者に支給するための敬老年金(1998年から施行)があります。

 また、高齢者の所得保障政策の一環として、高齢者の雇用を促進する政策である、老人就業斡旋センターと老人共同作業所が設けられています。この他には、地下鉄・鉄道、公園、博物館などの公共施設利用の際に利用費の割引を行うなどの敬老優遇制度(老人福祉法26条)があります。 また、高齢者のための医療保障制度としては、医療保険法(1977年制定されたが、国民皆医療保険が完成したのは1989年)と、医療保険から除外された貧困階層に対する公的扶助として医療保護があります。

 高齢者への住居保障についてみると、韓国における高齢者への住居保障は、貧困層のための永久賃貸住宅と自立生活が可能な高齢者が共同生活をおくる‘老人の家’が中心であり、一般の高齢者のための住居保障ではありません。また、一般高齢者への住居保障のためのものとして、住宅資金割増支援、住宅分譲優先権付与などがありますが、これらの施策は直系家族と同居している高齢者のみが該当されるもので、実際に高齢者の住居を保障する施策としては機能していないといえましょう。  最後に、高齢者へのケアの保障についてみると、高齢者のケアを保障するシステムは十分整っていない現状です。 高齢者へのケア保障は、在宅と施設ケアの保障にわけてみると、韓国は1990年代に入ってから、在宅サービスを中心に福祉サービスを基盤の整備が行われてきました。

 現在、韓国の老人福祉法に基づく老人福祉施設は、(1)老人住居福祉施設、(2)老人医療福祉施設、(3)老人余暇福祉施設、(4)在家老人福祉施設があります。さらに、(1)老人住居福祉施設は、養老施設、実費養老施設、有料養老施設、実費老人福祉住宅、有料老人福祉住宅と分けられ、(2)老人医療福祉施設は、老人療養施設、実費老人療養施設、有料老人療養施設、老人専門療養施設、有料老人専門療養施設、老人専門病院に、(3)老人余暇施設は、老人福祉会館、敬老堂、老人教室、老人休養所が、(4)在家老人福祉施設は、家庭奉仕員派遣施設、昼間保護施設、短期保護施設に分けられています。

 在家老人福祉施設は、1996年当時、家庭奉仕員派遣施設が33ヶ所(利用者の1%未満が認知症高齢者)、昼間保護施設は12ヶ所(うち認知症高齢者保護は5ヶ所)、短期保護施設は10ヶ所(うち認知症高齢者保護は4ヶ所)でした。
 2003年現在はこれらの事業が整備されつつあり、1996年33ヶ所だった家庭奉仕員派遣センターは1999年74ヶ所に増加し、2003年には135ヶ所が設置されています。
 昼間保護施設は1996年12ヶ所が運営されていましたが、2001年4月には昼間保護施設が全国に101ヶ所、短期保護施設は1996年10ヶ所から2001年には29ヶ所までに増加しています。

 一方、施設ケアである、老人住居福祉施設、老人医療施設の整備は、保健福祉部によると、高齢化社会を迎え、認知症などさまざまな疾病を抱える高齢者を支援するため、認知症専門療養病院、老人専門療養施設などの拡充が掲げられています。これらの整備計画は、市・道立の認知症専門療養病院がそれぞれの市・道に1ヶ所の設置を目標としています。2000年9月には京幾・全北・全南・慶北・慶南などの5ヶ所が開設・運営中であり、2001年には3ヶ所の支援が計画され、2003年まで17ヶ所を開設運営する方針になっています。
 また老人専門療養施設は、認知症あるいは麻痺などの病気を抱えている老人のための専門療養施設は現在22ヶ所が運営中であり(18ヶ所新設予定)、2001年11ヶ所を新設し、2003年まで90ヶ所の新設を支援する予定であることが明示されています。
 このように韓国は今、ケアの保障のために在宅ケア・施設ケアに関連するサービスの整備とともにケアを保障するためのシステム(2007年長期療養保険の導入の検討)の模索をしている現状です。

Q これからの高齢者福祉についてどのようにお考えですか?
農村の風景
のどかな農村の風景

 韓国では高齢化社会に突入した2000年以降、高齢社会に突入すると予測される2019年に向けて、社会構造の変化、家族構造の変化などを考慮し、国のレベルでの総合的な高齢化対策が急がれています。
 韓国の高齢者政策はこれまで、‘前家庭、後社会保障’のもと、また伝統的な‘孝’思想を強調しながら、遅れをとってきました。

 確かに、従来から未だに根付いている‘孝’思想は韓国社会において、韓国ならではの実践道徳として継承されているもので、‘孝’意識を維持する努力は必要であることは間違いありません。しかし、これまでの韓国の高齢化政策でみられるような‘孝’文化への過度な依存、押しつけは望ましくないと考えています。
 これからの高齢者政策は、韓国社会の根幹をなしているとされる‘孝’文化を継承しながら、高齢者の高齢期の生活が保障できる社会的扶養システムの模索が求められているといえましょう。まさに、今の韓国は、急速な進展が予想される高齢社会へのさまざまな対応策を講じる時期に立たされています。

 

李 栖瑛(イ ソヨン)
李 栖瑛
 1997年韓国韓瑞大学老人福祉学科卒業後来日、2000年東洋大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了、現在同大学大学院博士後期課程在学中、2002年より東京成徳短期大学非常勤講師、現在に至る。


〈参考文献〉
キンイクギ・キンドンベ・モソンヒ・パクギョンスク・ウォンヨンヒ・イヨンスク・ジョソンナン、『韓国老人の生活-診断と展望』、未来人力センター、1999
チャフンボン・チェソンジェ・イガオク・ユンヒュンスク・ソヘギョン・パクギョンスク、『高齢化社会の長期療養保護』、小花、2000
ムンインハ・キンスヨン・キンミヘ・チョイス・キンヒネン・パクギョンスク、『老人の現実と老人福祉改革の課題』、セジョン出版社、2002
韓国老人福祉学会、『老人福祉研究』、1998
韓国社会科学研究所社会福祉研究室(2002)韓国の社会福祉(=金永子編訳『韓国の社会福祉』、新幹社)
統計庁
保健福祉部

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