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田中元のここがポイント
介護研究会報告書
「2015年の高齢者介護」

 介護保険制度がスタートしてまる3年。介護サービスの利用が伸びる一方で、様々な課題も浮かび上がっています。高齢化がさらに激しさを増す中で、介護保険制度を今のまま続けていくことができるのでしょうか。

 厚生労働省の「高齢者介護研究会」が、2003年6月に「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」という報告書をまとめました。2015年というのは、いわゆる団塊世代が65歳を迎える年に当たり、予測される高齢化率は26%(国民の4人に1人が65歳以上)にのぼるといいます。

 この気が遠くなるような数字を迎える前に、日本の高齢者介護はどのような方向をめざすべきなのでしょう。今回まとめられた報告書は、そのあたりの道筋が示されています。ただ、これは国の示すビジョンであって、実際に要介護者を抱える家族にとって「具体的に何が、どうなるのか」はなかなか見えづらい点があります。そこで、この報告書が示すビジョンを、要介護者とその家族の目線に立ってかみ砕いてみることにしましょう。

(介護ジャーナリスト:田中元)

同報告書は、厚生労働省のWEBサイト上で公開されています。


・施設の「安心」を在宅に「出前」する小規模・多機能サービス拠点

・在宅での安心を支えるには痴呆ケアとケアマネジメントがカギ

・在宅から離れても、「その人らしい」生活を少しでも続けるために

・リハビリテーション重視が家族の負担を減らす切り札!?

施設の「安心」を在宅に「出前」する小規模・多機能サービス拠点

 報告書の大テーマは、「高齢者の尊厳」。いわば「人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく生きていくこと」を指しています。言葉としては美しいですが、実現するのは並大抵のことではありません。例えば、住み慣れた家から離れ、施設の中の決められた生活パターンを強いられる状態が、「その人らしく」生きていることになるのでしょうか。

 その点、自宅での介護は、本人の生活の場が維持される分、「その人らしさ」を保つことができます。しかしながら、現在の居宅サービスでは、家族にかかる負担を完全になくすことは不可能です。特に高齢者世帯が増える中で、高齢者が高齢者を介護する「老・老介護」が日常化し、「その人らしく」という理想を掲げるだけでは、共倒れという最悪の事態さえ生みかねません。だからこそ、在宅介護をしている家族の多くは「施設入居の空きを待っている」状態にあるわけです。

 施設では、24時間・365日職員がそばに付いています。そこには大きな安心があります。もし、この「安心」を在宅でも実現することができれば、家族の負担を抑えつつ、「その人らしく」生きるための光が見えてきます。

 具体的な方法について、報告書では「小規模・多機能サービス拠点」というものを提案しています。施設の持つ「多機能(緊急時でも、夜間でも、どんな状態でも対応してくれるという機能)」を「小規模」化して、要介護者が住む地域に分散させるわけです。施設の持つ「安心」を、在宅に“出前”すると言えば分かりやすいかもしれません。

 例えば、家族介護者にとっての不安材料として、「夜間のトイレ誘導や体位交換」が大変な重荷になっています。夜間の巡回ヘルプなどを使いたくても、近くにその拠点がないケースなど、いざという時に頼りきれない不安があります。また、介護者が体調を崩したりした時、要介護者をショートステイさせる先がなかなか見つからないこともあります。そうした時、夜間の巡回にすぐ対応してくれる、あるいはすぐにショートの受け入れ体制をとってくれる機関が近くにあれば、それだけでも「安心」は広がります。

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在宅での安心を支えるには痴呆ケアとケアマネジメントがカギ

 家族にとって特に重荷となるのは、要介護者が痴呆である場合です。中でも、身体的には元気な痴呆高齢者が徘徊や妄想などを繰り返すと、家族が気を休める間はほとんどなくなります。つまり、在宅介護で「安心」を得ることはほとんど不可能になるわけです。

 もし、地域の人々が痴呆に対する理解を深め、徘徊時の発見や保護に協力してくれる体制があれば、それだけでも家族の安心は大きくなります。また、居宅サービスを提供するスタッフが痴呆ケアを十分にマスターして、本人の不安を上手に取り除いてくれれば、住み慣れた環境での生活をできるだけ長く続けることも見えてきます。

 そのためには、痴呆に対する正しい理解を広げ、スタッフに対する十分な研修を行なう仕組みが望まれます。今回の報告書では、痴呆ケアを高齢者介護の中心に据え、地域全体で痴呆性高齢者を支えることを強くうたっています。いままで、介護といえば「寝たきりの高齢者」を主に想定していましたが、この方針に大きく舵がとられたわけです。

 ただし、これも理想論だけでは前へ進みません。痴呆性高齢者とその家族を地域全体で支える仕組みをつくるには、地域のサービス機関同士がしっかり連携をとって、何かしらの問題が発生した時にすぐ対応できることが求められます。そのあたりのコーディネートをするのがケアマネジャーの役割ですが、その質の向上に向けては道半ばというのが現状です。報告書では「地域包括ケアシステムの確立」という言葉を使い、ケアマネジャーの質の向上や、ケアマネ以外のコーディネーター役として在宅介護支援センターの機能を強化するといった点を打ち出しています。

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在宅から離れても、「その人らしい」生活を少しでも続けるために

 もちろん、以上のような方策だけで、在宅における完璧な「安心」が得られるわけではありません。例えば、古い住宅の場合は、どんなに住宅改修をほどこしても身体機能の衰えに対応しきれない環境で過ごさなければならないケースがあります。そうなると、「住み替え」という選択肢を選ばざるをえませんが、「できる限り住み慣れた地域で暮らしたい」という思いだけでも叶えられれば、「その人らしい」生活の維持は可能です。

 そこで、在宅がダメなら施設という二者択一でなく、「住み慣れた地域で、家庭に近い環境、しかも24時間・365日の安心を担った介護体制」という条件を備えた「新たな住まい」を選べるようにするのです。

 実は、この条件を叶えた住まい方は、現行の介護保険制度の中にも位置づけられています。痴呆性高齢者を対象としたグループホームと特定施設入所者生活介護というメニューが適用されるケアハウスや有料老人ホームです。この範囲をもっと広げ、いわゆるケア付き住宅や宅老所のような所も介護保険制度の仕組みに含めていくことがうたわれています。

 例えば、高齢者向け住宅の中に、先にふれた「小規模・多機能型」のサービス機関を組み込むことも考えられます。元気なうちからこうした住宅に住み替えておけば、いざ自分や家族に介護が必要になった時、「ご近所」の機関に駆け込めばいいわけです。いきなり住み替えなどを考える必要が少なくなる点で、今までの生活パターンを続ける可能性が広がり、「その人らしさ」を維持しやすくなります。

 もちろん、施設入所という選択肢をなくしてしまう、ということではありません。一人暮らしの高齢者などは「施設に入所せざるをえない」ケースもあります。その場合でも、できる限り、「その人らしい」生活が継続できる仕組みが求められます。

 施設の中で、「その人らしい」生活を維持するには、入居者一人一人の生活リズムを尊重したケアが求められます。今も、「個別ケア」といった方針をはっきり打ち出す施設はありますが、現実に徹底されているかといえば、疑問符が付くケースもあります。

 施設を自宅の環境に近づける方法の一つとして、現在進められているのが、個室・ユニットケアです。施設内を1グループ10人程度の生活単位(ユニット)に分け、それぞれのユニットごとに自炊をするなど、一般家庭のような環境で共同生活をおくるのです。寝起きに関しては、入居者ごとに個室を設け、一人一人の生活リズムが尊重できるようにしています。いわば、グループホームや宅老所が施設の中にいくつも設けられていると考えれば、分かりやすいかもしれません。

 平成15年に実施された介護報酬の改定では、この個室・ユニットケアが新たな報酬枠として設けられました。対象となっているのは特別養護老人ホームですが、老人保健施設や療養型病床群など、他の介護保険施設でも「個室・ユニットケア」を取り入れるケースも見られ始めています。

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リハビリテーション重視が家族の負担を減らす切り札!?

 個室・ユニットケアのメリットは、入居者が一方的に「介護を受ける」のではなく、共同生活を営むうえでの役割を担っているということです。この「役割」は、要介護者が本来持っている能力を引き出し、要介護状態の悪化を防ぐことにつながります。

 いわゆるリハビリテーションは、この考え方に基づいています。要介護者に対するリハビリテーションが効果的に行なわれれば、その人らしい生活を長く続けるうえで大きな力となり、ひいては家族の肉体的・経済的負担を減らすことにもなります。

 今回の報告書では、このリハビリテーションについて「本来の効果が得られていない」という反省に立ち、しっかりとした理論に基づいて、一人一人に合ったリハビリ・プログラムを立てていくことをうたっています。現在、厚生労働省では「高齢者リハビリテーション研究会」を立ち上げ、医療と介護の専門家による検討作業が始まっています。

 このように、今回の報告書は、いままでの高齢者介護で見落とされていた点、改善すべき点をいくつも打ち出し、その処方箋を掲げています。ただ、その実現までにはまだ多くの紆余曲折が予想され、「明日からでもすぐに」というわけにはなかなか行かないのが現状です。平成17年には、介護保険制度の抜本的な改定が予定されています。ここで、今回の報告書の理念がどこまで反映されるのか、利用者である私たちはしっかり見届ける必要があるでしょう。

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田中 元 (たなか・はじめ)

田中元(たなか・はじめ)
 昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
 立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。現在、新聞や高齢者介護の専門誌などで、現場の視点に立った記事を掲載。
 著書に『改正介護保険で仕事はここが変わる』 (ぱる出版)、『小規模デイサービスの始め方』 (ぱる出版)、『やさしい介護のしかた』 (監修/あい介護老人保健施設、高橋書店) など。




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